その犬を見たのは夏の真っ盛りだった。セミがうるさいくらいに鳴いていた頃。
その家に犬が飼われていることは知っていた。
以前は外につながれてはいなかった。だから犬小屋はない。
アスファルトの上に横になって、身体を大きく上下させて息をしている。
日中はどんなに暑いだろう。
私は散歩コースを変えた。
なのに、今日は我が家の犬がぐいぐいリードを引っ張って
その犬がいる方へ行ってしまった。
今は秋だ。朝晩はかなり冷え込む。
その犬は以前より痩せてあばら骨が浮き出ていた。
薄汚れて、あちこち毛が抜けて、ただれた皮膚が剥き出しになっていた。
綺麗な毛がふさふさしていたのに。
固まって動かない我が家の犬。私だって固まってしまった。
そこに立ち止まっていたら、その家から飼い主が出てきた。
そして、リードを無理矢理引っ張って犬を動かそうとした。
その犬は立ち上がろうとして、尻餅をついてしまい、また立ち上がろうとして、
尻餅をつく。
その繰り返し。
それを見ていたら泣けた。涙が止まらなくなった。
遠巻きにその犬を見ているしかなかった。
監視してるみたいに思われそうで、我が家の犬のリードも引っ張る。
4本の足を踏ん張ってしまって動かない。
なにを想っていたのだろう。犬同士、感じるものがあったのだろうか。
今、こうして、PCのキーボードを打っていても画面が潤んで見える。
仕事前なのに、目も鼻もグジュグジュ。